こんにちは。
今回は「アバターを利用した対人コミュニケーションに関する文献」のご紹介です。
結構好評を頂いているこのシリーズ。
メタナビ.comでは不定期でこういった文献をご紹介していこうと考えておりますので、ご興味があればTwitter等フォローして頂ければと思います。
それではいってみましょう!
アバターコミュニケーションは自己開示を促進しより親密な友情を築く可能性
インターネットを介したアバターコミュニケーションは、過去のつらい体験の自己開示を促進し、さらに、聞き手の好意的な反応を引き起こすことで、より親密な友情を築き、オンライン上でのソーシャルサポートを促進する可能性がある。
Amebaを運営するCyberAgent社による、同社のバーチャルコミュニティサービス「ピグパーティー2(ピグパ)」(https://lp.pigg-party.com/)を利用した研究論文です。
海外ではなく、日本人(ユーザーの61%がティーンエイジャー、65%が女性)の調査であることも興味深いです。
いじめ体験のように、辛い出来事の共有場として、なぜバーチャルコミュニティサービスが有効なのか?
それは、「ソーシャルサポートを受けるためにはまず自己開示が必要である」という前提があるからです。
確かに、何も声を発さないと、誰にも気づいてもらえない。
その結果、人知れず苦しんでいても誰にも助けてもらえないという状況に陥ってしまいます。
人は、他者からのソーシャルサポートを受けるために自己開示に頼らなければなりません。
インターネットの匿名性は、否定的な体験についての自己開示を促進するとされ、さらに、顔の表情やジェスチャーを示すことができるアバターコミュニケーションは、匿名性を維持しながら、非言語的に対話することを可能にし、非言語的コミュニケーションによる自己開示や社会的支援を含む感情的なコミュニケーションが可能となります。
つまり、言語的および非言語的コミュニケーションによる自己開示、感情表出が自発的に促進されるという点において、アバターコミュニケーションには強みがある可能性があるということです。
これは、いじめ体験に対する効果的な社会的支援のために、インターネットを介したアバターコミュニケーションツールが貢献する可能性を示しています。
こちらの研究では、2016年9月から2017年8月までのpigg party2内の会話から、1,130件のいじめ体験会話を特定しました。(具体的な方法は論文をご参照ください)
結果
最も効果的だったのは、個室のように閉ざされた空間で数人で自己開示が行われた時であり、被いじめ体験ユーザーやその聞き手は、誰でも入ってこれる公開ルームよりも個室ルームで、よりアバターアクションを頻繁に使用し、さらに、被いじめ体験ユーザーは、否定的な表現(悲しい、恐怖、嘆き)を使用する傾向がありました。
さらに、興味深いことに、個室ルームの場合、最後の期間(15〜30分)のいじめられたユーザーは、否定的な表現を使用しない傾向を示し、代わりに、肯定的な表現(大笑い、笑い、お辞儀、おかしい、幸せ)を使用する傾向がありました。
また、個室ルームでは聞き手ユーザーも、感情的な表現を使用して前向きな感情と共感を伝えました。
勿論、現実世界の全ての問題を解決出来るとは思いませんが、オンライン上でのソーシャルサポートは、リアルな世界での社会的関係の補助として機能する大きな可能性を秘めていると言えます。
リモート授業におけるVR利用の研究報告
こちらはアメリカの大学生を対象にしたリモート授業におけるVR利用の研究報告です。
※n=13と小規模で、アンケートベースの評価研究ですので、あくまでもその点を考慮し、結果だけを鵜吞みにせずご覧下さい。
13人の学生を対象に7週間のクラスで、学生の授業の参加(ヘッドセットとデスクトップVR)と発表(ヘッドセットVRのみ)の経験をさせ、終了後にプレゼンス、ソーシャルプレゼンス、使用に伴う不快感、コミュニケーション、アバターについて等、その他のいくつかの要因を評価しました。
結果
デスクトップとヘッドセットVRはどちらも、そこにいる感覚、存在感(プレゼンス)の増加を評価し、さらに、ヘッドセットVRとデスクトップVRのプレゼンス比較ではヘッドセットが上回りました。
また、ヘッドセットVRは、デスクトップVRと比較して、注意配分の増加(気が散りにくい)のメリットがある可能性が示唆されました。
デスクトップ、ヘッドセットVRは、クラスへの帰属感(クラスの一員として実際に授業に参加している感覚)にメリットがあると評価した一方で、ソーシャルプレゼンスには、あまり明確な影響を与えませんでした。
※ちなみに、meta社の定義によると、プレゼンスとは、自分がそこにいる感覚そのものを指すのに対し、ソーシャル・プレゼンスは「同じVR空間内にいる相手を意識する感覚」を指します。
また、一部の学生は、アバターだと、自分の姿がビデオで見られないことに価値があったと指摘しました。
やはり、顔を見せないことが、リモートクラスにVRを使用する非常に重要な理由であることに同意している様でした。
また、ヘッドセットVRでのプレゼンテーションを経験した学生は、実際のプレゼンテーションと比較して、ヘッドセットVRだと不安が少なくなることを評価しました。
また、学生は、クラスを行う上で、教師のアバターのクオリティを非常に重要と回答し、それは、全身追跡や口の動きなどの細かい機能です。
ヘッドセット使用に伴う身体的不調については、13人の学生のうち9人が、少なくともわずかな「一般的な不快感」を報告し、最も多かった他の症状は、疲労と眼精疲労でした。これは、ヘッドセットからの熱や顔の圧力などに関連している様です。
やはり、ヘッドセットの進化無くして、VR授業は成り立たないと考えられます。
他にも、デバイス操作の経験不足から来る不具合やバグが、全体的な体験価値を低下させました。
もし、上記のすべての不具合が修正された場合、ヘッドセット/デスクトップVRをどのように評価しますか?
という質問に対しては、ヘッドセットVRの評価がデスクトップVRを上回りました。新しい技術への期待の表れといったところでしょうか?
全体的に、デスクトップにせよヘッドセットにせよ、まだまだプラットフォームとしての使い勝手の悪さ、身体的な不快感に基づく症状、デバイス自体の重さや熱といった技術的な困難があったにもかかわらず、多くの学生がリモートクラスのVR活用を肯定的に捉え、高い期待を寄せており、プラットフォームの進化、デバイスの進化が加速すれば、他アプローチに代わる有望な選択肢を提供できる可能性が示唆されたとしています。
補足:プラットフォームについて
プラットフォームは、NTTの運営するDOORやpsychic VR labのstyly等のベースに用いられているMozilla Hubsを利用して行わました。
使用したヘッドセットの種類は、5つのOculus Quest(4つのスタンドアロンと1つのPC駆動のOculus Link経由)、4つのOculus Rift CV1、1つのOculus Rift S、1つのWindows Mixed Reality 、1つのWindows Mixed Reality Odyssey +ヘッドセット、1つのHTC Viveでした。
空間が人の心理に及ぼす影響に関する文献
最後は少し違った角度から。
コミュニケーションの場としてメタバースを利用する意義として、「自由な空間構築性」が挙げられると思います。
なぜ、自由に空間を構築することが素晴らしいのか?
その辺りについてのヒントになるような、空間が人の心理に及ぼす影響に関する文献を共有します。
メタバースやVR関連の研究ではありませんが、空間の重要性について非常に興味深いです。
この研究では、室内空間の「広々とした」印象が、その空間を初めて訪れた人の対人印象としての「共同性」に影響を与えると示唆しています。
勿論、気温、湿度、騒音レベル等は操作できませんが、メタバースで居心地の良い空間、イノベーティブな着想が生まれやすい空間など、物理的条件や気象条件に左右されず、目的に応じた最適な環境を設定することがある程度は可能になる気がします。
メタバースクリニックのご紹介
株式会社comatsunaではメタバースを利用したヘルスケアコミュニケーションサービスであるメタバースクリニックというサービスを提供しています。こちらでは医師によるお悩み相談、自助グループ、座談会等のサービスがなんと無料で受ける事が出来ます。
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